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2010年10月 アーカイブ

近代の外地詠

明治になって、鎖国が解かれたとはいえ、自由に海外の旅ができるのは、限られた人々だけでした。


近代短歌史上に、そうした旅の作品が現われるのは、明治末期からでしょう。


日露戦争に従軍した森鵬外や、新聞記者正岡子規も作品を残していますが、ここでは、戦争関係の外地詠は省略します(もっとも鴎外にしても子規にしても、いわゆる戦争詠とは言えない内容のものが多いのですが)。


以下、実例について見ていきましょう。


「囚人のさびしく住めば この闊きシベリアの野に街もあらずけり」


「停車場のひそまれるまへに、女ひとり黒き頭巾を被りて立てり 聞き古りし旅順の港いま見るは鈍くただ光る黒干潟のみ」


「息づまる土のほてりに眼を据ゑて一輪車押し苦力きたれり」


「敗戦の苦しみなどは一言も言はぬババリアのこの娘たち」


「ミシガン湖わが眼のあたりありながら霧深くして遠は見分かず」


「若葉の香水をわたりく楊柳はあるかなきかに風にゆらげり」


「明の代のむかしとはまくたたずめど石人石馬もだしてありけり」


「春の日の異国の島の石ただみふみて今朝きく郭公のこゑ」


「ものふりしニュルンベルグの街角の壁にひかれる聖マリアの像」


引用は『全歌集』、『現代短歌全集』にしたがったものです。

近代の外地詠 2

石原は自然科学を、原は医学を学ぶための留学でした。


植松は勤務先の会社をやめて次の職につくまでの間の旅であり、九条も茅野も夫君の外遊にしたがったのです。


苦力はクーリー、中国の下層労働者をいいます。


「とはまく」は問おうとして。


その他語意に分りにくいところはありません。


いずれも近代短歌がはじめて外国の旅を歌った先駆的作品で、目新しい風物に素直なおどろきの眼を向け、素直な言葉によって表現しています。


ただ現在の目からすれば、発想も、素材の切りとりかたも、表現技法も、当時の短歌の世界から一歩も踏み出していないことが物足りないですね。


いわば作者は、それまでに自分が身につけた短歌の波長にひっかかる部分だけで歌っていました。


短歌の世界は空間的にはひろがりましたが、内的世界を深化したとまではいっていません。


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