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2010年12月 アーカイブ

茂吉と白秋 3

北原白秋は、昭和4年3月から4月にかけて、40余日間、満州(現在の東北地方)蒙古を旅行し、その折の作品は、歌集『夢殿』におさめられています。


「寒月は谷を埋むる屍にまた冴えたらし或はうごくに」


「影つけて日向選り来る荷かつぎの肩かへにけりたぶつく水桶」


「鳴くまでは白霊の籠手に据ゑて爺ぞ居りける春のひねもす」


「くらくらと牛の頭煮たつ大釜の湯けぶりにしもや夕日ま赤き」


最初の一首、「屍山をなす」といわれた、日露戦争の古戦場に立っての作。


いわゆる写実の歌ではありません。


作者は早春の真昼の太陽を浴びて古戦場に立ち、20数年前の模様を思い描いています。


想像の中では、痛いほど冴えかえった空に斉がかかり、るいるいと戦死者の弊横たわる眼下の谷を昭州らしています。


ふとしては、動くはずのないその屍体が、かすかに動いたように思われます…。


二首目は解説を要しないでしょうが、「影つけて」に工夫があるでしょう。


空気の乾燥した大陸では、影と日向のコントラストがよけいにきわ立ちます。


そこをとらえています。


茂吉と白秋 4

「白霊」は小鳥の名です。


今は見られませんが、中国人は小鳥が好きで、一日中門前の石ころなどに腰かけて、小鳥の哺声を聞くでもなく聞かぬでもなく、ぼんやりと日を暮している老人をよく見かけました。


「老」でなく「爺」と言ったところが一首の急所でしょう。


太平洋戦争中、従軍して旧満州にいたころ、彼の地の日本人青年たちの文芸同人雑誌で次のような文章を読んだ記憶があります。


「多くの文学者が満州へ来たが、白秋ほどこの国の風土をさながらに表現した者は他にない」・・・と。


筆者が白秋のどの作品を指して言っているのか分りませんいが、ここに挙げた作品などはその例証となるでしょう。


旧満州はアジアの東端にありますが、気候圏から言えば、西アジア、中央アジアの乾燥地帯と同じです。


従って人々の生活様式は、アフガニスタンあたりとそっくりです。


白秋の眼は適確にその風土をとらえています。

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