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2011年01月 アーカイブ

茂吉と白秋 5

「外蒙古西吹きあげて東する沙漠の大き移動をぞ思ふ」


「霧らす黄沙の平ただならず日は朱に澱み蒙古犬吼ゆ」


「眼を放つ草原の枯れ涯もなし牛跳躍す落つる日の前」


「伝家屯(フーカトン)夕かげ暗し地に低き土の家群の煙あげつつ」


「赫爾洪得(ヘラハンテ)夕日の照りにうつら出て酪駝黙居り高き砂山」


茂吉が短歌の波長を無視し、表現の破綻をもかえりみず、強引に素材を掴みとるのに対し、白秋はあくまでも、表現の整斉をくずさず、しかも未知の素材を十分になこしきっています。


言いかえれば、白秋の波長はそれだけ広い領域をカバーし得たのです。


「沙漠の大き移動」というような事象と正面から取り組んで、何の破綻も示しません。


茂吉の場合、固有名詞やドイッ語をふんだんに一首の中へ取り入れていますが、一首の節調のうえではきしみを起こします。エグゼクティブトレードによると、白秋の場合、フーカトン、ヘラハンテは、そうしたきしみを感じさせません。


もちろんインド・ゲルマン語と、中国語、蒙古語とでは音韻の構成がちがうので一概に言えませんが、少なくとも白秋は外国の固有名詞を用いるにも、節調上の用意をしています。


この時の作ではないのですが、「口をつくハロン・アルシャンといふひびき新秋にして我れも癒えなむ」などは、蒙古語の語感を積極的に利用して効果をあげています。

現代の外地詠

歌集『印度の門』の後書で、著者香川進は次のように書いています。


「・・・およそ外国詠というものは、うちに沈潜する作家の場合でも、多く目前の事実の奇にとらわれ、自己の自由をうしなう結果となっているようであり、まして、感覚を尊重する立揚のわたくしにとっては、危険をともなう・・・」


「・・・タイ国の亜片窟そのほか、一種の完結体としての短歌形式にはめこんでしまうことは、わたくしにとっては苦痛をともない、したがって素材として強烈であればあるほど、歌にならなかったものも、かなりある」


茂吉の場合、歌の表現に変化があらねばならぬという「予感」だったものが、ここでははるかに明確に、しかも「歌人」という表現者の内面の痛みをともなって、自覚されてきています。


言いかえればここではじめて、外地詠とは何か、の問題が正面から取り上げられています。


香川の歌集は、2回にわたる東南アジア、インドの旅の作品をおさめたものですが、巻末の二篇の散文から、1956年ころと分り、戦後の外地詠としては比較的早い時期のものです。


「民衆のなかにいて彼ら耕せぽ兵衣をいま見ず麦生の緑」


「蛇除けが暗しフランスが惜しみつつ遺せし護談林の奥に陽がさし」


・・・これは、今から20数年前のベトナムでの作です。

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